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東京高等裁判所 昭和30年(ネ)2187号 判決

控訴人 五味福松 外五八名

被控訴人 重田信太郎 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は原判決を取消す、被控訴人両名は連帯して控訴人らにたいし、それぞれ原判決事実らん請求の趣旨に記載する金額を支払うべし、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする、との判決を求め、被控訴代理人らは控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上、法律上の主張、証拠の提出援用および認否は双方代理人において当審証人市村雷蔵の証言を援用したほか、原判決事実らんに記載のとおりであるからここにこれを引用する。

理由

訴外房総信用組合(以下訴外組合という)は中小企業等協同組合法(昭和二四年六月一日法律第一八一号)により設立された協同信用組合であることは弁論の全趣旨に徴し、当事者間に争がない。

成立に争ない甲第一、二、三号証同第四号証の一ないし三同第五号証第六号証の一ないし六、乙第一号証原審証人島津良男、榎本芳三郎、北村一夫、北川豊吉、高橋喜四郎、小島正仲、伊藤喜美恵の各証言および原審における被控訴人本人重田信太郎、同田村時之助の各供述をあわせると、訴外組合は昭和二五年七月一日の創立総会において、同法第二七条第三五条(ただし、いずれも昭和二七年法律第一〇〇号による改正前)の規定にしたがい、出資一口の金額五十円、出資全額払込とする旨の定款第九、十条の記載事項をふくむ定款が承認され、また同総会において被控訴人両名ほか七名の理事が選挙され、これら理事は総会終了後同法第二八条(ただし昭和二六年法律第一三八号による改正前)の規定により発起人から組合の事務の引渡を受けたものであるところ、被控訴人らおよびその他の理事は、同法第二九条第四項の定めるところにしたがい組合員をして遅滞なく出資の全額を払込ましめなければならないのにかかわらず、右規定に違反し、金二十万円に満たない払込しかないのにかかわらず、同法第八三条(ただし、昭和二六年法律第一三八号による改正前)第九三条にもとずいて昭和二五年七月二一日、出資の総口数二万一千三百四十六口、払込済出資総額金百六万七千三百円という事項をふくむ設立登記をしたこと、(ただし、被控訴人両名が右設立のとき理事に就任したこと、昭和二五年七月二一日右趣旨の設立登記をしたことは当事者間に争がない。)被控訴人らは理事として訴外組合の事業を行うにあたつては、昭和二四年六月一日法律第一八三号、協同組合による金融事業に関する法律第二条(ただし昭和二六年法律第一号による改正前)により、大蔵大臣の免許を受けなければならないのにかかわらずこの規定に違反し、右免許を受けないで組合の事業たる組合員にたいする資金の貸付、組合員および組合員以外の者の預金または定期積金の受入等を行つたことおよび訴外組合の定款には組合の負担に帰すべき設立費用の定めがないのにかかわらず被控訴人らは右定款の規定に違反し、理事就任後間もなく、発起人の一員であつた訴外北村一夫にたいし、設立費用として約金二十万円を支払つたことを認めることができる。

ところで前記高橋喜四郎の証言成立に争ない甲第七号証の一ないし二〇第八号証の一ないし二四、第九号証の一ないし四、第一〇号証の一、二、四、五、第一一、一二号証の各一、二第三者の作成にかかり、当裁判所において成立を認める甲第一三号証をあわせると、控訴人らはそれぞれ訴外組合の外交員の勧誘に応じ、別紙預金表記載のとおりの金額に達する日掛または月掛の定期積金をし、それぞれその満期日にその返還債権を取得したことが認められ、(ただし赤字訂正の部分は訂正のとおり認定)さらにこの事実と前段に挙示した各証拠とをあわせると、同組合は控訴人らのほかの者からも多くの定期積金等の受入をしたにもかかわらず前段認定のような資本の欠缺、不当な事業の執行等のため事業資金を失い、昭和二七年一月以後は事実上その事業を継続することができず、同年四月、組合員たる訴外伊藤喜美恵から千葉地方裁判所木更津支部に組合設立無効の訴の提起され、同年五月二七日同裁判所において出資総額の五分の一にも足りない出資払込しかなかつたこと等を理由として設立無効の判決を言渡され、その後同判決は確定し、同法第三二条商法第四二八条第三項第一三八条により解散の場合に準じて清算をすることを要することとなつたことが認められる。

しかして昭和二六年四月六日法律第一三八号中小企業協同組合法の一部を改正する法律附則第一七項第一九項、同改正法による改正前の同法第四二条により準用される商法第二六六条第二項(昭和二五年法律第一六七号による改正前)によれば理事が法令または定款に違反する行為をしたときは、その理事は第三者にたいし連帯して損害賠償の責に任ずべきものであるからもし右清算の結果組合財産をもつてしては控訴人らにたいする定期積金返還債務を弁済することができないときは控訴人らは右債権と同額の損害をこうむるものであり、この損害はすなわち被控訴人らが前記のとおり理事として法令および定款に違反した行為をして不法に訴外組合の設立登記をしてこれを成立させ、不法に事業を開始して控訴人らに組合にたいする定期積金を行わせ、また組合資金の不法な支出をした結果控訴人らに生ぜしめるにいたつた損害であると解しうるから、右旧商法の規定にしたがい、被控訴人らは他の理事と連帯してその賠償の責に任じなければならないと解される。しかしこれに反し、もし右清算の結果右債務のうち、いくらかでも弁済しうるときはそれだけ被訴人らの損害は減少するわけであるから、被控訴人らの控訴人らにたいする損害賠償の範囲は右清算の結了をまつてはじめて確定するものといわなくてはならない。

ところで成立に争ない乙第二号証原審における被控訴人田村時之助の供述により成立を認める丙第二号証当審証人市村雷蔵の各証言をあわせると、訴外組合清算人は昭和三〇年一二月五日同組合の債務超過を理由に破産宣告の申立をしたのであるが当時その一切の財産額は合計金百二十七万七千余円であるにたいし、債務元金総額は合計金百四十七万千二百八十一円で、金十九万四千余円の債務超過であるうえに、右財産中には取立不能もしくは困難な債権も多額にあつて、控訴人らの定期積金返還債権はとうてい全額弁済をうけることはのぞめないが、全く弁済をえられないということも断言できないことが肯定される。

本件には以上の認定をくつがえすにたる証拠はない。

してみれば控訴人らが被控訴人らにたいし有すべき損害賠償請求権もいまだ今日においてはその範囲を確定しがたいところであり、控訴人らがいま被控訴人らにたいし前記定期積金返還債権全額に相当する損害賠償請求権を有するものとしてその履行を求める本件請求は失当であるからこれを棄却すべく、これと同旨の原判決は相当である。

よつて本件控訴を棄却し、民事訴訟法第八九条第九五条第九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤江忠二郎 原宸 浅沼武)

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